政府は2015年4月、地球温暖化防止の国際会議で求められている温室効果ガスの削減目標案を公表しました。それは2030年度の二酸化炭素(CO2)排出量を2013年度比で26%削減するというもので、京都議定書の基準年である1990年に対しては18%の削減率になります。この目標値では、2030年度における再生可能エネルギーの比率を22〜24%と想定しています。しかし日本では東日本大震災以来、停止を余儀なくされている原子力発電の代替として、このところ火力発電の比率が高まりCO2の排出量が増加しているだけでなく、その燃料費や代替として急増してきた太陽光発電の買取費用の増加にともなう電力価格の上昇という問題に直面しています。
また、わが国は大震災を機に、供給電力の最適な電源構成(エネルギーミックス)についても根本的な見直しを迫られていますが、そうしたなかで紙パルプ産業の取組みに注目が集まっています。製紙企業が内外に保有する63万haにも上る植林地は、温室効果ガスの吸収源として地球温暖化防止に貢献。また各地の製紙工場では広大な敷地を活用した太陽光発電や、未利用木材の集荷システムとノウハウを活かした木質バイオマス発電の試みが活発化し、新たな雇用機会を生み出すビジネスとして地元からも期待が寄せられています。
一方、世界に目を転じると製紙原料に占める古紙のウエイトは一段と高まりつつあります。とりわけ製紙産業が勃興期にある途上国では、段ボールや白板紙など産業用紙向けの原料として安価かつ品質の良い古紙に対するニーズが引き続き旺盛です。これらを背景に古紙の国際貿易が活発化しつつあり、年間約500万tが輸出される日本の古紙はその品質の確かさ、異物混入の少なさから海外市場でも高く評価されています。縮減傾向にある国内需要を考慮すれば、今後とも“J-BRAND”古紙として品質を維持していくことが、売り先の選択肢を増やし国内の余剰化を防ぐための有効な手立てと言えるでしょう。
弊社は長年にわたり“紙”を中心に据えた出版活動に携わってきた立場から、毎年『紙パルプ産業と環境』シリーズとして環境問題に焦点を当てた出版物を刊行していますが、2016年版では『エネルギー、バイオマス、古紙、植林〜持続可能な社会への貢献』と題し、業界内に限らず関連他産業の企業をはじめ一般消費者、市民運動団体、官庁・公共機関など広範な対象の方々が紙パの実情に対する理解を深めるための有益な1冊としました。
● エネルギー |
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私はこう考える/紙パルプ産業におけるバイオマスエネルギー利用の課題と展望 私はこう考える/製紙産業の事業構造転換の中核を担う電力事業への参入ポテンシャルとその評価 新電力会社(PPS)」の実態調査/小売自由化をにらみ登録社数が急増 |
● 気候変動 |
日本政府のGHG排出削減目標/2013年度比△26%は国際世論にどう受けとめられるか COP21と日本の選択/巨額の新規投資資金が流れ込む世界の再生可能エネルギー市場 |
● 新素材・新技術 |
森林国のアベノミクス/省庁超えた施策でCNF事業本格化 世界が認める日本のCNF研究/アジア初の森林産業“ノーベル賞” |
● 古紙利用 |
メーカー別の古紙消費量/消費の増減にバラツキがあった2014年 世界の古紙需給/回収量のシェアが低下する米国、輸入依存度が4割を切った中国 2020年度の古紙利用率目標/65%に向けた課題と条件を経産省が委託調査で抽出 私はこう考える/中国における古紙利用の現状と課題 |
● 森林・植林 |
2015年度JOPPセミナー/GM樹木開発と違法伐採防止の潮流 平成26年度森林・林業白書/国内林業活性化と利用拡大に向け課題を抽出 |
● 製紙産業の取組み |
環境・CSR報告書を見る/テーマ性を持たせて増頁化、信頼性を高めつつイメージ刷新も 私はこう考える/中国における環境政策の新たな方向と製紙産業の発展 |
● 資料 |
わが国の古紙回収率と古紙利用率 国際森林製紙団体協議会(ICFPA)が古紙リサイクルで声明 |
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