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紙パルプ技術協会/第68回定時総会で北越紀州製紙の青木常務が新理事長に
 紙パルプ技術協会は7月17日、東京・銀座の紙パルプ会館で「第68回定時総会」を開催、議案の審議・承認を行うとともに役員改選、藤原・大川・佐伯三賞および佐々木賞の表彰式を行った。
 当日の総会では鈴木邦夫理事長(三菱製紙代表取締役社長)が議長を務め、開会にあたって大要以下のような挨拶を述べた。
 「世界経済はギリシャ問題・中国株安問題などが人々に不安を与えているが、日本経済はアベノミクス効果が持続し昨年の消費税増税の余波も何とか乗り越え穏やかな回復基調にある。しかし、紙パ産業および関連産業は人口減少や製造業の海外移転による国内空洞化などの構造要因もあって減少局面にある。その象徴的分野が印刷・情報用紙で、電子媒体との深刻な競争に曝され減少傾向に歯止めがかかっていない。この傾向は欧米など先進国も同様である。
 もちろん、日本の紙パ産業も手をこまねいているわけでなく、各社とも事業の在り方を根本的に見直す過程に入っている。すなわち、本業で生産性・コスト・品質・環境対応などの競争力に磨きをかける一方、業界各社は現状から3つの方向で脱皮を図っている。第1が、すでに芽を出している事業群のなかで成長性を確保できる事業分野に積極的に投資していく動き。これはエネルギー事業やパッケージング事業、紙おむつなどヘルスケア事業に顕著である。第2が海外進出の拡大。とくに成長著しいアジアや南米の新興国への進出である。そして第3が新技術・新事業開発をテコに業態展開を目指す方向。大きなうねりとして、セルロースナノファイバー(CNF)の開発・製造と活用に日本の紙パ産業は注力しており、将来の新たな産業創出に繋がると夢を抱かせる。いずれの方向性も、海外コンペティターの技術力が強まってきている状況では、グローバルな技術競争力がなければ成果に繋がらない。他の産業でも同様な経験を経て業態転換を成し遂げている。例えば繊維業界は数十年前に比べ製品は大きく様変わりをしている。カーボンファイバーは最新鋭ジェット旅客機の機体材料となり、また水処理ユニットには機能性ポリマーの中空糸が使われている。それでも紡糸技術などのように繊維産業固有の技術は依然として根幹技術として生き続けている。
 紙パ産業も木材からセルロース繊維を取り出す、繊維スラリーを漉き取ってシートにする、繊維シートを加工する、といった基本的固有技術は価値を失わないよう高めていく必要がある。紙パ化学技術はもともと林学・化学・化学工学・機械工学・エネルギー工学・計測制御工などの複合的科学技術で、学際・業際的色彩の強い分野である。その特徴を活かすためにも“人の繋がり”は重要である。当協会は紙パルプにかかわる広大な科学と技術について、会員だけでなく世界の研究者・技術者間の繋がりを確保する重要な紐帯である。
 この1年、当協会は精力的な活動や活発な交流・議論を通し多くの有意義な知見を得られたものと確信する。これも会員各社・関連業界ならびに大学・研究機関、そして協会役員・職員の尽力の賜と感謝する。今後ともご支援ご協力を賜りたい」
 鈴木理事長挨拶のあと平成26年度事業の報告が行われ、同収支決算・貸借対照表・財産目録の議案を満場一致で承認。引き続き同協会理事および監事により任期満了にともなう役員の改選が行われ、新理事長に北越紀州製紙の青木昭弘常務取締役を選出するとともに山崎和文副理事長(日本製紙取締役常務執行役員)、小関良樹副理事長(王子ホールディングス常務グループ経営委員)の再任が決まった。なお、専務理事は引き続き宮西孝則氏が務める。
 総会終了後は平成26年度の藤原・大川・佐伯三賞と佐々木賞の表彰式が行われ、平成26年度の紙パルプ技術協会賞・印刷朝陽賞の受賞者および報文が発表された。各賞受賞者の概略は以下の通り。
 (1) 藤原賞
 受 賞 者;岩瀬廣徳氏
 略  歴;1949(昭和24)年6月7日生まれ、横浜国立大学大学院工学研究科修士課程卒。74年4月十條製紙入社。2004 (平成16)年6月日本製紙取締役、06年4月同常務取締役、08年6月同専務取締役、09年6月日本大昭和板紙代表取締役社長、12年10月日本製紙専務取締役、13年4月同代表取締役副社長を経て、15年6月同常任顧問に就任。
 受賞理由;勿来、富士工場長としてバイオマスボイラーの新設、主力マシンの操業、品質改善の実施、感圧紙コーターの設置などを推進し工場の収益向上に成果。草加工場の段ボール原紙マシン塗工設備設置、吉永工場のDIP設備統合化、大竹・岩国両工場のパルプ生産体制再構築などによる基盤強化。また、古紙再生促進センターの代表理事として業界に貢献、ほか。
 (2) 大川賞
 受 賞 者;西村修氏
 略  歴;1949(昭和24 )年4月4日生まれ、関西大学工学部電気学科卒。74年4摂津板紙入社。95(平成7)年6月同取締役、06年6月レンゴー取締役、10年4月常務執行役員、14年4月専務執行役員にそれぞれ就任。
 受賞理由;板紙抄紙技術の発展向上に尽力、レンゴー・八潮工場7号機の建設を主任技師として主導、同工場長になってからは超高圧プレス機の導入などにより品質向上と省エネ・省資源を両立させるとともに段ボール原紙の薄物化・軽量化製品を先駆けて開発。また地球温暖化防止活動環境大臣表彰、業界初の省エネルギーセンター・省エネ大賞の経済産業大臣賞を受賞した。
 (3) 佐伯賞
 受 賞 者;友安盛士氏
 略  歴;1951(昭和26)年3月7日生まれ、京都大学農学部林産学科卒。74年4月本州製紙入社。2008(平成20)年4月王子板紙執行役員、10年4月同常務執行役員、12年4月同常務取締役、13年6月王子マテリア専務取締役を経て、14年4月同顧問に。紙パルプ技術協会では13年7月から14年7月まで理事・各賞候補推薦委員長。
 受賞理由;本州製紙に入社以来、製紙技の発展に尽力。2014年まで王子マテリアの専務取締役技術本部長として経営の要衝にあり、特殊紙事業の拡大や板紙事業の再編・構造改革に取り組んだ。とくに段ボール原紙分野における新規品種の開発、抄造銘柄品種の統合で貢献。さらに生産工程標準化を全国展開して品質統一化を図り、適地生産体制の確立に成果。紙パルプ技術協会では理事・各賞候補推薦委員長として功績。
 (4) 佐々木賞
 受賞技術@;「欠陥検出器のカラー検査技術」オムロン(山田義仁社長)
 受賞技術A;「SEローターベーンの開発」ローター工業(出口勇次郎社長)
 (5) 紙パルプ技術協会賞・印刷朝陽会賞
 受賞報文@;「段ボール原紙巻取における吸湿シワ発生要因の解析」平野大信、小林孝男(王子ホールディングス)の両氏
 受賞報文A;「モデル予測制御を用いたECF漂白工程の多変数制御」森芳立(王子ホールディングス)、渡辺雅弘(横河電機)、山本高弘(横河ソリューションサービス)の3氏
 三賞および佐々木賞の表彰式が執り行われ、各受賞者による謝辞が述べられて記念撮影が終了した後、隣接会場での懇親パーティへと移った。懇親パーティでは冒頭、来賓を代表して経済産業省紙業服飾品課長の渡邊政嘉氏が大要次のような祝辞を述べた。

 CNF国際標準化が戦略改訂版に明記

 「わが国の政治状況も安保法制を巡ってさまざまな議論が交わされているが、当経済産業省は“第三の矢”の成長戦略を実施できるように1つずつやり遂げていくべく心を引き締めているところで、6月30日には成長戦略の改訂版(『日本再興戦略』改訂2015)も閣議決定されている。製紙産業では事業構造転換に向け紙以外の新しい素材としてCNFが注目されているが、今回の成長戦略改訂版でも、CNFを確実なマテリアルとしていため、国際標準化実現への取組みも明記されている。本件に関しては経済産業省だけでなく農林水産省、CO2削減の観点から環境省、それから文部科学省および国土交通省が加わり一体となって進めている。このCNFがわが国の製紙産業にとり、将来の1つの主力事業になればと期待している。製紙産業は全体で7兆円規模となるが、目標として2030年にCNFで1兆円程度の市場規模を目指したいので、今後ともご指導ご鞭撻をお願いしたい」
 次いで、乾杯発声の挨拶に立った青木新理事長は理事長就任の抱負として大要次のように述べた。
 「不慣れな点も多々あるが、当面は10月に開催される当協会の年次大会を何としても成功させるよう全力を尽くす。開催地の当社新潟工場でも着々と準備を進めているので、多数の参加をお願いできれば幸いである。業界内外で課題となっている技術の継承は当社も例外でなく、この協会での活動がその一助となって寄与できればと思う。微力ではあるが精一杯努力していくのでご支援のほどよろしくお願いする」
 挨拶のあとの乾杯で歓談へ移り、経済回復基調と新たな成長に対する期待で会場内が盛り上がるなか中締めが行われ、当日の予定は無事終了した。

(紙パルプ技術タイムス2015年8月号)

大日本印刷/英国デラルー社とセキュリティ分野で提携
 大日本印刷は、セキュリティ関連の印刷および製紙会社として世界トップクラスを誇る英国のDe La Rue plc(デラルー)とセキュリティソリューション分野での業務提携に合意した。今後両社は新偽造防止技術を共同で開発し全世界に展開していく。
 大日本印刷は1982年に世界で初めてホログラムの量産技術を確立し、87年には日本国内の競合他社に先駆けてICカードの製造・発行を開始するなど、セキュリティ製品で業界をリード。“モノづくり”と“ICT”の両面で、独自技術を強みとしたセキュリティ関連事業を展開している。一方、デラルーは世界トップシェアの紙幣製造をはじめ、パスポートや運転免許証などのセキュリティ印刷から紙幣カウンターやATMなどの機器まで、トータルなセキュリティビジネスをグローバルに展開している。
 そうした両社が、今後は戦略的パートナーとして世界のセキュリティビシネスをリードしていく。大日本印刷の偽造防止技術とデラルーのセキュリティ印刷技術を融合し、新たなセキュリティソリューションをグローバル市場に展開する計画で、その第一弾として大日本印刷がリップマンホログラム、エンボスホログラムなどのセキュリティ製品をデラルーに供給し、海外のセキュリティ市場に参入する。

 〔デラルーの概要〕
 1821年設立。偽造防止印刷技術と製紙技術を活かし、紙幣やパスポート、運転免許証などのセキュリティ製品を手がける。とくに紙幣については、英国をはじめとする150ヵ国以上で採用。なお、PPI誌「世界の紙パ企業トップ100社ランキング」2014年版では、製紙関連部門の13年売上高が5億3,270万ドルで、全体の98位にランクされている(連結売上高は8億240万ドル、連結純利益は9,350万ドル)。

(Future 2015年7月13 日号)

中越パルプ工業/「竹紙」の新ブランド“MEETS TAKEGAMI”がスタート
 中越パルプ工業は同社の「竹紙」を広く社会に知ってもらうため、デザインオフィス「minna」(株式会社ミンナ)とコラボレーションし、新たなペーパーブランド“MEETS TAKEGAMI”を七夕の7月7日に立ち上げた。
 ブランドネーム、ロゴデザイン、コンセプト開発、商品デザインなど、minnaがトータルでデザインを手がけ最終商品群を開発していく。9月2〜4日に開催される第80回「東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2015」 のアクティブデザインコーナーで製品発表する予定。
 「竹紙」は国産竹を原料とする環境対応紙。中越パルプ工業は、里山に生い茂る竹の活用法を模索する地域と連携し、産業利用の成功例が少ない竹を木材同様に紙の原料として活用、国産竹100%の「竹紙」を生産販売する体制を構築した。この取組みは、放置竹林といった社会的課題を解決する取組みとして高い評価を受け、多くの環境関連の顕彰事業で表彰されてきた。しかし、「竹紙」の認知度は一般的には低く、あまり知られていない。そこで、気鋭のデザインチームminnaとともに新ブランドを立ち上げ、「竹紙」を使った最終商品群を展開していくもの。

(Future 2015年8月3 日号)

日本テトラパック/三角パックコーヒーが常温保存可能になって復活

 日本テトラパックの三角パック“テトラ・クラシック・アセプティック”入りのコーヒー牛乳が、全国のローソンで販売開始された。
 “テトラ・クラシック・アセプティック”は、学校給食の三角パック牛乳を彷彿とさせる昔懐かしいスタイルと、常温保存可能な機能性を兼ね備えた飲料パック。日本酪農協同の乳飲料“毎日コーヒー”に採用され、ローソンが実施している40周年創業祭の「懐かしいシリーズ」として販売される。
 テトラパックがスウェーデンで開発した三角パックは、日本では1950年代に導入され、学校給食の牛乳をはじめ幅広く利用された。2004年以降、国内での販売は一時休止していたが、日本テトラパックは2014年7月、昔懐かしい形状はそのままに、常温保存可能な三角パック“テトラ・クラシック・アセプティック”として提供を再開した。

(Future 2015年8月3 日号)

日本製紙/第5次中期経営計画を策定
 日本製紙はこのほど、2015年度から3ヵ年にわたって取り組む「第5次中期経営計画(2015〜17年度)」を策定した。第4次中期経営計画において震災復興と財務体質の改善目標を達成したことを踏まえ、今後の3年間では成長分野の伸長・創出に積極的に資金を投じ、2017年度に500億円の営業利益を目指すとしている。
 第5次中計では、引き続き「既存事業の競争力強化」と「事業構造転換」が主要テーマとなる。国内外における洋紙・板紙事業の収益を源泉に、エネルギーやケミカル、ヘルスケア、パッケージなど、今後成長が見込まれる分野での事業展開に、「人」「もの」「金」「情報」といった経営資源を効果的に再配分する。また、事業構造転換を加速させるため、新たにROA(Return On Asset;総資産利益率)の目標を設定し、有効な資産構成を実現していく。
 なお日本製紙グループでは今回の第5次中計策定に合わせて、企業グループ理念を「世界の人々の豊かな暮らしと文化の発展に貢献する」と明文化した。木とともに未来を拓く総合バイオマス企業として、新たな価値の創造に挑戦する姿勢を表している。

(Future 2015年6月15 日号)

王子ホールディングス、中越パルプ工業/資本提携から共同持株会社設立へ
 王子ホールディングスと中越パルプ工業の資本・業務提携が正式に決まった。
 両社は昨年12月、このスキームを発表すると同時に公正取引委員会による企業結合審査を受けていたが、去る5月26日、公取委より問題解消措置の実施を前提に排除措置命令を行わない旨の通知書を受領。これを受けて、中越パルプ工業の実施する第三者割当増資を王子HDが引き受ける資本提携が5月中に実行され、王子HDグループの中パに対する持株比率は20.8%、所有議決権割合は20.9%に達し、中パは王子の持分法適用会社となった。併せて今後6〜7月には、次のような業務提携が実行に移される。

 (1) 輸入チップ共同調達に関する合弁会社の設立
 ・業務提携の内容
 原料調達コストの削減を目的とした輸入チップの共同調達会社を設立。これにより余剰傭船契約の有効活用、直接貿易によるコスト削減、調達先の最適化によるコスト削減、人員合理化による固定費削減を進める。
 ・合弁新会社の概要
 名  称;O&Cファイバートレーディング
 所 在 地;東京都中央区
 事業内容;両社グループが使用する輸入チップの調達業務
 資 本 金;1億円
 出資比率;王子木材緑化(王子HD全額出資子会社)80%、中越パルプ工業20%
 設立年月;2015年6月予定

 (2) 高級白板紙の生産に関する合弁会社の設立
 ・業務提携の内容
 王子HDの100%子会社である王子製紙・富岡工場内に合弁会社を設立、同工場の遊休マシンを活用して、高級白板紙の生産にかかる事業を共同で行う。これにより、高級白板紙事業の生産効率化と能力の拡大を図り、事業の強化につなげる。
 また併せて、印刷情報用紙の需要構造の変化に対応した最適生産体制を構築するべく、同工場の7号機(年産4.4万t)、9号機(同13.6万t)の停止を検討。
 ・合弁新会社の概要
 名  称;O&Cアイボリーボード
 所 在 地;東京都中央区
 事業内容;高級白板紙の生産に関する事業
 資 本 金;1,000万円
 出資比率;王子製紙(王子HD全額出資子会社)50%、中越パルプ工業50%
 設立年月;2015年7月予定

 (3) 製袋事業における業務提携
 ・業務提携の内容
 国内・海外で製袋事業を強化することを目的に、株式移転による共同持株会社を設立し、中越パルプの製袋事業子会社6社と王子HDの製袋事業子会社7社を共同持株会社の傘下に入れる。これにより国内では生産の合理化を進め、海外においては両社の既存拠点を基点として、需要の拡大が続く周辺地域への事業拡大を進める。
 ・共同持株会社の概要
 名  称;O&Cペーパーバッグホールディングス
 出資比率;王子産業資材マネジメント梶i王子HD全額出資子会社)55%、中越パルプ工業45%
 設立年月;未定

(Future 2015年6月15 日号)

日本製紙/八代工場に未利用材100%のバイオマス発電所
 日本製紙はこのほど八代工場の敷地内に、間伐材等由来の未利用材100%を燃料として使用するバイオマス発電所を竣工した。6月から営業運転を開始し、発電した電力は再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を活用して九州電力に販売する。
 今回使用する未利用材は森林資源の豊富な九州という立地を活かし、同社グループで長年木材調達を行っている鞄栄および日本製紙木材の集荷網により九州で発生する間伐材などを利用する。
 〔バイオマス発電所の概要〕
 所 在 地;熊本県八代市十条町1-1(八代工場内)
 燃  料;間伐材由来等の木質バイオマスチップ100%(FIT対応、年間使用量見込み約7万t)
 発電規模;5,000kW(送電端)

(Future 2015年6月15 日号)

兵庫パルプ工業/22MW発電設備を建設し新バイオマス発電事業へ
 兵庫パルプ工業はこのほど、子会社パルテックエナジーで新たな木質バイオマス発電事業を開始すると発表した。地域で発生する未利用材やリサイクル材を燃料に活用し、出力2万2,100kWの発電を行う。投資額は約80億円で2017年12月の完成稼働を目指している。
 同社のバイオマス発電には、すでに20年余に及ぶ歴史がある。すなわち、1993年にはパルプ廃液(黒液)燃焼による3号発電設備(3万8,700kW)からの余剰電力販売を開始し、2004年にはリサイクル材燃焼による4号バイオマス発電設備(1万8,900kW)を新設。このうち後者は2013年に再生可能エネルギー固定価格買取り制度(FIT)の認定を受け、現在は未利用材・一般材も一部混焼している。
 今回のパルテックエナジーにおける新バイオマス発電設備は未利用材、一般材、リサイクル材を新たな視点から活用するもので、発電出力は既設の4号設備を上回る2万2,100kW、設備の稼働は2017年12月を予定。新設備はパルプ材には適さない木質チップ、林地残材、製材バーク、開発材、未利用のリサイクル材などを利用する。
 なお、この発電設備は今年1月、5号バイオマス発電設備としてFITの認定を受けている。
 〔パルテックエナジーの概要〕
 所 在 地;兵庫県丹波市山南町谷川858(兵庫パルプ工業敷地内)
 資 本 金;5,000万円
 事業内容;木質バイオマス発電、建材パルプの製造・販売
 使用燃料;未利用材、一般材、リサイクル材、PKS(パームヤシ殻ペレット)
 主要設備;水冷式ストーカーボイラ、蒸気発電設備
 蒸気条件;6.0MPa、480゚C、85t/時
 発電出力;22,100kW
 投 資 額;80億円
 稼働予定;2017年12月

(Future 2015年6月8 日号)

三菱製紙/八戸工場3号抄紙機を7月から一部再稼働
 三菱製紙は国内需要の低迷を受けて12月下旬から八戸工場3号抄紙機を一時休止し、月産1万t強の減産を継続してきたが、7月から一部再稼働させる。アライアンスなどを含む情報用紙化の推進、産業用インクジェット用紙や印刷用紙の輸出拡大を進めてきた結果、生産量が不足してきたため一部再稼働するもの。

(Future 2015年6月15 日号)

大王製紙/9月を目途に東京本社を移転
 大王製紙は今秋、東京本社オフィス、ホーム&パーソナルケア事業部早稲田オフィスを、次記のとおり移転する。
 同社グループは4月から、「Step-up〜飛躍と拡大」をテーマとした第2次中期事業計画(2015~2017年度)をスタートさせている。事業計画の達成に向け、部門間・階層間のコミュニケーションを強化し、組織・部門を超えた一体運営と意思決定・業務のスピードアップを実現するため、次記部門を新オフィスに移転・集約するもの。移転時期は9月の予定。
 移転先;東京都千代田区富士見2-10-2(飯田橋グラン・ブルーム、24・25階)
 移転予定部門;大王製紙東京本社、洋紙事業部、板紙・段ボール事業部(中央区八重洲)、ホーム&パーソナルケア事業部(新宿区早稲田)

(Future 2015年6月8 日号)

レンゴーロジスティクス/八潮流通センターを開設

 レンゴーの連結子会社でグループの物流部門を担うレンゴーロジスティクスは、このほど八潮流通センターを開設した。
 同流通センターはレンゴーの八潮工場から約2.5kmと近く、主に同工場板紙製品の物流効率化と配送の迅速化を目的に、24時間入出庫可能な製品倉庫として開設された。レンゴーは、「八潮工場製品をはじめグループ製品の輸送拠点とするほか、総合物流企業の基幹拠点として活用していく」としている。
 〔八潮流通センターの概要〕
 所在地;埼玉県八潮市南後谷69-4
 規 模;地上3階建て、倉庫面積2万5,138m2

(Future 2015年6月8 日号)

国際紙パルプ商事/シンガポールに地域統括法人を設立
 国際紙パルプ商事は6月、東南アジア地域事業の統括会社「KPP ASIA-PACIFIC PRIVATE LIMITED」をシンガポールに設立する。
 国際紙パルプ商事は、東南アジア地域での事業拡大を成長戦略上の重要なテーマと考え、これまで販売拠点の拡充を進めてきた。 その一環として、地域統括法人の設立を決めたもの。新会社は、東南アジアの同社グループ現地法人・支店に対する「経営企画・管理」機能を統括する。資本金は100万シンガポール・ドル(約9,000万円、国際紙パルプ商事100%出資)、代表者は駒場豪氏。

(Future 2015年5月25 日号)

レンゴー/セルガイアと梅炭で高機能糸を開発

 レンゴーはサンライジング(大阪府泉佐野市)と共同で、セルガイアと梅炭を使った新たな高機能糸『PRUBONE』(プルボーネ)を開発した。
 『PRUBONE』は、優れた抗菌・消臭機能のほか、ウイルスなどを不活化させる機能を持つ梅炭抄繊糸。抄繊糸とは、細く切った和紙をより上げて作られる糸のことで、『PRUBONE』は、和歌山県の特産品である梅を加工する時に大量に排出される“梅の種”を炭化させた梅炭パウダーを漉き込んだ和紙に、高機能繊維『セルガイア』を配合した、全く新しい抄繊糸。
 レンゴーが特許を持つセルガイアには、高い抗菌・消臭性、ウイルス不活化、スギアレルゲン不活化などの機能がある。こうした機能が評価され、これまでディスポーザブルマスク、ペットシーツ、軽失禁パッド、水切りゴミ袋など、幅広い分野で使用されてきたが、テキスタイル分野への応用は進んでいなかった。一方、サンライジングでは、産業廃棄物とされていた梅の種を炭化することで得られる消臭効果に着目し、梅炭パウダーを漉き込んだ抄繊糸を用いた服飾雑貨を販売してきたが、有力なセールスポイントとなる抗菌機能を付与できずにいた。
 新製品『PRUBONE』は、両社がそれぞれの知見を持ち寄り、また美濃和紙の技術も取り入れることで、風合いが軟らかく、かつ強度も高い新抄繊糸の開発に成功したもの。従来の梅炭パウダーのみの抄繊糸に比べ、セルガイアが加わることで優れた抗菌機能はもちろん、消臭機能も高まった。
 『PRUBONE』から作られた服飾雑貨(ストールなど)は、同名ブランドによりすでに商品化されており、主に日本生活協同組合連合会、JP三越マーチャンダイジング、ディノス・セシール通販、地方生協などで販売されている。

(Future 2015年6月8 日号)

紙・板紙需給3月/国内出荷が12ヵ月連続減
日本製紙連合会が集計した3月の紙・板紙国内出荷は、前年同月比△4.5%と12ヵ月連続の減少。ただし、消費増税などの特需要因がなかった前々年と比較すると+0.8%のプラスとなっている。
 紙・板紙国内出荷の内訳は、紙が前年同月比△4.9%の130.0万tで、12ヵ月連続のマイナス(前々年同月比△1.3%)、板紙は△4.0%の95.5万tで5ヵ月連続の減少(前々年同月比+3.9%)。品種別で見ると、主要品種のすべてで前年同月比はマイナス、前々年同月比は情報用紙、包装用紙、段ボール原紙、白板紙がプラスで、新聞用紙、非塗工紙、塗工紙、衛生用紙はマイナスだった。
 紙・板紙のメーカー輸出は前年同月比+22.0%の10.8万tとなり、9ヵ月連続の増加。うち紙は+15.2%の7.9万tで、アジア向けを中心に4ヵ月連続のプラス。板紙は+45.3%の2.9万tと、東南アジア向けを中心に29ヵ月連続増となった。
 紙・板紙の月末在庫は前月比+0.6万tの195.2万tとなり、前月の減少から増加に転じた。うち紙は、包装用紙と衛生用紙が増加したものの、新聞用紙、印刷・情報用紙は減少し、全体では△1.9万tの128.0万tと2ヵ月連続で減少した。板紙は+2.5万tの67.3万tで、段ボール原紙を中心に3ヵ月連続の増加。
 以下は主要品種の動向である。
 〔新聞用紙〕
 国内出荷は前年同月比△5.0%の27.8万tで、13ヵ月連続の減少。前々年同月比は△5.7%とさらにマイナス幅が大きい。
〔印刷・情報用紙〕国内出荷は前年同月比△3.3%の74.2万tで、12ヵ月連続のマイナス(前々年同月比は+0.1%)。メーカー輸出は前年同月比+24.0%の5.9万tとなり、4ヵ月連続の増加。
 〔包装用紙〕
 国内出荷は晒、未晒ともに減少して前年同月比△5.5%の6.7万t。3ヵ月連続の減少となった(前々年同月比+0.4%)。メーカー輸出は前年同月比△9.4%の1.3万tで、引き続き高水準ながら2ヵ月連続の減少となった。
 〔衛生用紙〕
 国内出荷はティシュ、トイレットペーパーともに減少して、前年同月比△14.5%の14.7万t。3ヵ月連続減となった(前々年同月比△5.8%)。
 〔板 紙〕
 段ボール原紙の国内出荷は前年同月比△3.7%の76.4万tで、5ヵ月連続の減少(前々年同月比+4.8%)。白板紙は△2.8%の12.4万tで、6ヵ月連続の減少(前々年同月比+1.0%)。

(Future 2015年5月11日号)

レンゴー/ベトナムで段原紙の新生産設備を建設
 レンゴーのベトナム合弁企業、ビナクラフトペーパー社は、かねて生産能力の増強を検討していたが、このほど段ボール原紙生産設備(抄紙機)の建設を決めた。投資額は1億3,000万ドル、2017年第2四半期中の稼働を目指す。
 ベトナムの段ボール原紙需要は年間130万t(2014年)。海外からの直接投資が継続していることや国内消費の高まりから、今後も年率6〜10%の高い伸びが見込まれている。レンゴーとしては今回の新抄紙機により、ビナクラフトペーパー社のマーケットリーダーとしての地位を確固たるものにしたい考え。また、これによりベトナムでの製紙・段ボール一貫生産体制をさらに強化していく。
 海外事業を大きな柱の一つとするレンゴーは、東南アジアを重要な戦略地域と位置付けており、今後もベトナム事業の一層の充実を図っていく方針。

 〔ビナクラフトペーパー社概要〕
 本  社:ベトナム・ビンズオン省ミーフック工業団地内(ホーチミン市より北西40km)
 代 表 者:Sangchai Wiriyaumpaiwong社長
 資 本 金:1億9,000万ドル
 出資企業:Siam Kraft Industries Co., Ltd.70%、レンゴー30%
 生産品目:段ボール原紙(ライナー・中しん)
 生 産 量:年産24万6,000t
 新設抄紙機:段ボール原紙、年産能力24万3,000t(完成後の総年産能力48万9,000t)

(Future 2015年5月18日号)

日本製紙、三菱商事/石巻で石炭・バイオマスの混焼発電事業に着手
 日本製紙と三菱商事は宮城県石巻市に、石炭・バイオマス混焼火力発電設備を建設・運営する発電事業会社「日本製紙石巻エネルギーセンター梶v(仮称)を、5月下旬を目途に設立する。出資比率は日本製紙70%、三菱商事30%。
 新会社は日本製紙石巻工場が保有する雲雀野(ひばりの)用地内に発電設備を設置し(写真)、設備の運転・管理および電力の卸供給販売を行う。燃料は石炭に木質バイオマス(最大30%)を混合した混焼発電で、運転および保守は日本製紙が受託。発電出力は149MW(発電端)で、PPS(特定規模電気事業者)に売電する。事業開始は2018年3月の予定。
 石巻市は東日本大震災で津波の被害を受け、日本製紙の洋紙事業の中核を担う石巻工場も操業全停止を余儀なくされたが、震災から約1年半後の12年8月末には完全復興を果たした。日本製紙は現在、紙だけでなく、成長が見込める分野でのビジネス展開を進めており、中でも発電設備の操業技術や木質バイオマスの調達優位性を活かしたエネルギー事業に力を入れている。石巻工場では洋紙事業以外にリサイクル事業も手掛けており、さらに発電事業をスタートさせることにより、電力の安定供給とともに、近隣の林業振興、地域社会の発展に寄与していく。
 一方、三菱商事は東日本大震災以降、三菱商事復興支援財団を通じて被災地域の復興支援を継続している。今回の発電事業についても、これまでの事業で培ったノウハウを活かして、環境、地域社会に配慮しながら長期安定的な事業運営を進めることで、地域の産業振興、雇用創出・維持に努めていく考え。

(Future 2015年5月11日号)

セッツカートン/新東京工場を建設

 レンゴーの連結子会社、セッツカートンはこのほど、埼玉県川口市で新東京工場の建設に着手した(イラストは完成予想図)。
 セッツカートンではかねて、東京工場(埼玉県八潮市)の老朽化に伴いリニューアルを検討していたが、敷地が狭く操業を続けながらの建物改築や設備更新が難しいため、代替地に新工場を建設し移転することにしたもの。新工場は、太陽光発電設備を導入するなど環境にも配慮した最新鋭工場へ生まれ変わる。完成予定は2016年8月。
 同社では、「関東地区での段ボール製品供給体制の充実を図るとともに、より迅速なユーザーニーズへの対応と一層の品質向上を図り、段ボール事業をさらに強化する」としている。
 〔セッツカートン概要〕
 本 社:兵庫県伊丹市東有岡5−33
 代表者:丹羽俊雄
 資本金:4億円
 株 主:レンゴー100%
 事 業:段ボールシート、ケースの製造販売
 売上高:418億1,700万円(2014年3月期)
 従業員:596名
 新東京工場:埼玉県川口市東領家5-1-12、敷地面積2万4,842m2・建築面積2万2,409m2

(Future 2015年5月18日号)

日本製紙/TEMPO触媒酸化処理によるCNFを実用化
 日本製紙はこのほど、TEMPO触媒酸化法で化学処理したパルプを原料とするセルロースナノファイバー(CNF)を用いて、触媒、消臭、抗菌などさまざまな性能を持つ機能性シートを実用化することに成功した。TEMPO触媒酸化法とは、東京大学大学院農学生命科学研究科の磯貝明教授らが開発したセルロースの化学変性方法で、これによりパルプが解繊しやすく均一な幅のナノファイバーを得られる。
 日本製紙グループは製品化第1弾として、CNFを配合して高い消臭機能を持たせたシートをヘルスケア用品に展開していく。今秋から、日本製紙クレシアの軽失禁用品“ポイズ”や大人用紙おむつ“アクティ”などで、このシートを使った製品を発売する予定。
 CNFは、植物繊維(パルプ)をナノレベルまで解繊したもので、軽量ながら弾性率は高強度繊維で知られるアラミド繊維並みに高く、温度変化に伴う伸縮はガラス並みに良好、酸素などのガスバリア性も高いなど、優れた特性を発現する。また植物繊維由来なので、生産・廃棄時の環境負荷が小さいという利点もある。
 日本製紙は、2013年10月に岩国工場にCNF実証生産設備(生産能力30t/年)を設置し、大量のサンプル製造と用途開発に取り組んできた。そして今回、TEMPO触媒酸化法により化学処理することで、CNFの表面に金属イオンや金属ナノ粒子を高密度に付着させることが容易であるという特徴を生かし、紙や板紙、不織布、フィルムに配合・塗布してシート化することに成功。付着させる金属の種類を変えれば、触媒、消臭、抗菌など、さまざまな機能をシートに付与できる。また、ナノファイバー化されているため比表面積が大きく、少量の添加で機能を効果的に発現できるという利点があるため、今後の用途展開にも期待が持てる。
 日本製紙グループは、再生可能な森林資源を高度利用して人々の暮らしを支える分野へ事業領域の拡大を図っており、CNFはその中核となる新素材。同社では今後、「速やかな量産化技術の確立と幅広い産業分野への用途開発を進めていく」としている。

(Future 2015年5月11日号)

マルクス・ヴァレンベリ賞/アジアで初めて東京大学・磯貝教授らが受賞

 東京大学大学院の磯貝明教授(写真)と斎藤継之准教授、および西山義春博士の3氏はセルロースナノファイバー(CNF)に関する研究成果が認められ、今年9月にアジア初のマルクス・ヴァレンベリ賞を受賞することが決まったが、これに先立つ3月18日、東京大学・弥生講堂アネックス(東京都文京区弥生)のセイホクギャラリーで受賞内容についての記者会見が催された。当日は受賞者を代表して磯貝教授が、表彰を行うスウェーデンのマルクス・ヴァレンベリ財団からはカイ・ローゼン事務局長と藤原秀樹シニアアドバイザー(元・日本製紙取締役)がそれぞれ出席した。
 現在、CNFは環境時代の新たな高機能材料になるとして欧米・日本を中心に激しい研究開発競争が繰り広げられており、実用化へ向けて産学官の共同研究や実証プラント運用などが進められている。そうしたなかで、磯貝教授ら3氏がマルクス・ヴァレンベリ賞を受賞することの意味は大きく、わが国のCNF研究が世界のトップランナーにあることを改めて内外に示す恰好となる。
 マルクス・ヴァレンベリ財団はストラ・コッパルベリース・ベリースラーグス社(現ストラ・エンソ社)が森林産業分野でのマルクス・ヴァレンベリ氏の功績を称え1980年に設立、「森林・木材科学において重要な基礎研究や利用技術の発展に著しく貢献する画期的な研究開発を奨励・促進」することを目的に81年賞を創設し、毎年1名または1グループを表彰している。“森林・木材科学分野のノーベル賞”として、これまでスウェーデンやフィンランド、カナダ、米国、オーストラリアなどの研究者が表彰されてきたが、アジアでは今回の受賞が初めてとなる。
 表彰理由は、東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻の磯貝教授と斎藤准教授の両氏が「CNFのTEMPO触媒酸化に関する画期的な研究を行い、木材セルロースからナノフィブリル化セルロース(NFC)を高いエネルギー効率で生成するツールとしてこの酸化の利用開発に尽力した」こと。また、同様の理由により元・同専攻助教で現在はフランスの国立科学研究庁・植物高分子研究所(CNRS-CERMAV)の主任研究員を務める西山博士も表彰の対象となった。この3氏による革新的で独創的な研究業績はNFCの産業利用にとって画期的な技術となり、関連研究開発の世界的拡大における先駆けとなったと言える。今後、NFC生産と新たなNFC含有先端材料の開発が進むことにより、グローバルな森林資源の有効利用と、低炭素社会の構築につながる新産業創成が大きく前進するものと期待されている。
 なお、表彰式は今年9月28、29日、ノーベル賞受賞者が宿泊することで知られるスウェーデン・ストックホルムのグランドホテルにスウェーデン国王夫妻を迎えて開催される。賞金は200万スウェーデン・クローナ(約2,800万円)。

 実用化の道を開いたTEMPO触媒酸化

 もともとCNFは地球上にもっとも多く存在する森林資源、すなわちバイオマス由来の再生可能な高機能材料と言われてきた。樹木中のセルロースは精緻な階層構造で細胞壁を形成しており、最小構成単位の結晶性セルロースミクロフィブリルは幅が数ナノメートル(nm)、長さは数ミクロンで、化学的に安定しており、高強度・高弾性率が大きな特徴となっている。従来は樹木中のミクロフィブリル間が細胞壁内で強く結束しているため、ミクロフィブリル1本1本を分離し材料として利用することが難しかった。しかし、ミクロンレベル下で処理できるようになれば、最先端のバイオ系ナノ素材として幅広い利用が可能となる。例えば、CNFを水に分散させ成膜すると透明で強度があり熱膨張率の低い安定なフィルムが得られ、しかも酸素をほとんど通さないため酸化防止膜としての優れた性能も発揮できる。
 こうした高機能材料としての利用を実現するのが、今回の受賞対象となった磯貝教授らによるTEMPO触媒酸化の研究成果である。TEMPO触媒酸化とは、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル)などの安定ニトロキシラジカル種を触媒とする酸化反応のことであり、多糖の1級水酸基を選択的にカルボキシル基へ酸化できるというもの。これを木材パルプや綿などの天然セルロース繊維に適用すると、ミクロフィブリル表面に露出した1級水酸基(約1.7基/nm2)を選択的にすべてカルボキシル基へ酸化することができる。つまり、TEMPO触媒酸化されたセルロースミクロフィブリル表面は高密度のカルボキシ基で覆われた状態になる。酸化後はこの表面カルボキシル基が水中で電離するため、ミルクフィブリル間に静電的な斥力および浸透圧が効果的に作用。続いてミキサーなどによる軽微な分散処理を加えれば、幅約3nmで長さ数μmに達するミクロフィブリル単位(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)にまで分離分散することができる。
 この研究成果がCNF実用化の道を大きく開いたわけである。ちなみに、経済産業省は昨年3月『製紙産業のビジョンとロードマップ(高度バイオマス産業創造戦略)』を発表。そのなかで有望技術の1つとしてCNFを取り上げ、2030年の市場創造目標として1兆円を設定している。続く同6月に産総研(独立行政法人・産業技術総合研究所)コンソーシアム「ナノセルロースフォーラム」を設立。言わば国家プロジェクトとしてのCNF事業化を始動させており、民間レベルでの実用化へ向けた研究開発も活発化しているが、今回の受賞はそうした動きに一段と拍車をかけるものと予想される。

 真の評価はこれからの実用化進展で

 記者会見当日、磯貝教授が行った受賞挨拶の要旨は以下の通り。
 「木材資源は地球最大の再生可能なバイオマス資源であり、これを上手く使うことで低炭素社会あるいは循環型社会の構築が大きく進展する。しかし、樹木は自らを守るため場合によっては樹高100mを維持したり、1000年以上も生命を保ったりできるようなつくりとなっている。このため、素材として自由に機能を付与し活用することが難しい素材であった。これまで各種の研究が重ねられてきたが、その多くは実用化過程で大きなエネルギーや薬品が必要とされ、高コストにつくものであった。
 われわれはいくつかの偶然と継続的な研究を通じて、樹木のなかに含まれる幅3nmの均一なナノ細胞を完全分離することに成功した。この発見に関しては、同じ研究室の斎藤准教授と博士課程の時に留学していたフランスの西山博士の協力なくしてあり得なかった。この研究成果は単に新たな化学的解明が行われたというだけでなく、バイオマス由来のCNFを活用できるようになった点でも大きな意義があったと思う。CNFは樹木を構成する単位であり、従来は多くのエネルギーや薬品を使わないと1本1本に完全分離させることができなかった。それを可能とする方法を発見したわけだが、さらに研究を進めていくなかでその優れた特徴、例えば、鋼鉄の5分の1の軽さで鋼鉄の5倍の強度といった、先端材料として利用可能な特性をもっていることもわかってきた。
 近年、先端材料への期待から各種ナノテクノロジーの研究成果が蓄積されてきたが、そうしたなかでCNFは再生産可能でバイオマス由来、生分解性があるといった点で従来のナノ材料を超えるとの認識が広がりつつある。日本の森林面積は国土の6割以上を占め、その多くは使われず放置されたままである。そうした未利用の樹木からセルロースを取り出し、パルプ化・漂白化して紙やセルロース繊維製品をつくるという従来の流れでなく、新しい流れとしてナノセルロース化による新規材料への展開が検討されている。すなわち、日本に豊富な針葉樹の未利用資源を有効利用し持続的に森林から先端材料をつくっていくという方向である。燃焼させるのは植物が蓄積した二酸化炭素を大気中に戻すことになるが、先端材料にして蓄積させれば低炭素社会や温暖化対策、循環型社会の構築にも貢献できよう。
 なお、今回の受賞はわれわれ3人にとどまらず、多くの大学院生や企業研究者、研究支援組織などの支えがあったからこそである。また、受賞内容は調整方法の特性・特徴に対する評価であり、真の評価はこの研究成果が実用化プロセスへと進み、樹木のセルロースが身の回りで利用されるようになってからであろう。今後ともわれわれの研究室にとどまらず、共同研究の企業の方々とも一緒になって実用化へ結びつけるべく、また引き続きこの分野で世界をリードしていくべく“オールジャパン”の観点から研究開発を進めていきたいと考えている」

 〔受賞者略歴〕
 磯貝明(いそがい・あきら)氏
 1954(昭和29)年生まれ。80年東京大学農学部卒。85年同大学院にて博士号取得(博士論文「非水系セルロース溶媒を使用したセルロース誘導体の調整」)。米国ウィスコンシン州のアップルトン製紙科学研究室にて博士研究員。後に、米国農務省林産物研究所(米国マディソン)にて研究員、客員研究員。94(平成6)年東京大学准教授、2003年より教授職。2000年以降は180以上の刊行物において執筆および共筆。
 西山義春(にしやま・よしはる)氏
 1972(昭和47)年生まれ。97(平成9)年東京大学大学院修士課程修了。2000年同大学院にて博士号取得(論文「セルロースの結晶構造とマーセル化のメカニズム」)。2000〜04年東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻、助教。04年よりフランスの国立科学研究庁・植物高分子研究所(CNRS-CERMAV)にて上級研究員。査読学術誌において81の科学論文を執筆および共著。
 斎藤継之(さいとう・つぐゆき)氏
 1978(昭和53)年生まれ。2003(平成15)年東京大学卒。08年同大学院にて博士号取得(論文「天然セルロースのTEMPO触媒酸化」)。博士課程在職中、マリーキュリー奨学金を受け、05〜06年フランスの国立科学研究庁・植物高分子研究所(CNRS─CERMAV)にて西山義春博士と研究に従事。東京大学にて日本学術振興会(JSPS)博士研究員の後、同大学にて助教。現在、准教授。12〜13年、スウェーデン王立工科大学・繊維高分子科学専攻にて、客員研究員としてラーシュ・ベリルンド教授と研究に従事。斎藤博士は多年にわたり、磯貝教授とTEMPO触媒酸化およびナノセルロースについて研究。査読学術誌において90以上の科学論文を執筆および共著。

(紙パルプ技術タイムス4月号)

三菱製紙、北越紀州製紙/販売子会社の合併を中止
 三菱製紙と北越紀州製紙は4月1日、かねて公表していた販売子会社の経営統合について、検討・協議を中止すると発表した。国内紙市場の縮小を背景に、両社は昨年8月、それぞれの販売子会社である三菱製紙販売と北越紀州販売を、2015年4月1日を目途に合併すると発表、以降、検討・協議を重ねてきたが、折り合いがつかなかった模様。
 中止の理由について三菱製紙は、「北越紀州製紙と協議の結果、本経営統合における諸条件の合意に至らなかった」としているが、一方の北越紀州製紙は、「三菱製紙から基本合意書の解除通知があったため統合検討を中止せざるを得なくなった」と発表しており、両社の認識には若干の食い違いが見られる。北越紀州によれば、三菱製紙は2014年12月、協議の一時的な中断を一方的に通知、これを受けて北越紀州側は協議を再開するよう再三要請したが、4ヵ月間協議は再開されなかった。加えて合併予定日の変更なども提案したが、三菱側からは説明がないまま、解除通知を受けたとしている。

(Future 2015年4月20日号)


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