藤原科学財団/第60回「藤原賞」は慶大・大西、理研・西田両博士に
藤原科学財団による第60回「藤原賞」受賞者に慶応義塾大学グローバルリサーチインスティテュート・特任教授の大西公平氏(リアルハプティクスの創出とその応用),理化学研究所生命機能科学研究センター・センター長の西田栄介氏(MAPキナーゼならびに関連シグナル伝達経路の分子機構と生理機能)が決定し、6月17日東京・神田錦町の学士会館において贈呈式が挙行された。
大西氏は、電話等の聴覚伝送やテレビなどを通じた視覚伝送に次ぐ第3の感覚通信を創造する「ハプティクス」により、通信ネットワークを介して触覚を伝送、遠隔で感じることができるシステムを確立し、世界初となる鮮明な力触覚通信を達成した。また、同技術を安全に産業・社会に普及させるための研究開発に取り組み、すでに一部は実装を果たしているほか、人間と機械の調和に向けた革新的なイノベーションを生み出すものとして期待される。
一方の西田氏は、外因性の多様な因子によって細胞の増殖や分化が決定づけられる仕組みを解明。鍵となるのはタンパク質リン酸化酵素「MAPキナーゼ」で、この分子機構の解析からタンパク質キナーゼの連鎖反応(カスケード)を明らかにし、さらにこのカスケードが細胞の発生や老化、寿命まで広範な生命現象に関わっていることも突き止めるなど、細胞の情報伝達に関する研究領域で世界をリード、医学の発展にも寄与している。
冒頭、挨拶に立った矢嶋進・同財団理事長(贈呈式に先立ち開催された理事会で選任。上写真)は両受賞者を祝福するとともに、研究を陰から支えてきた家族への敬意を表し、大要次のように述べた。
「昨年は近年にない多数の応募があったが、今回はそれをさらに上回る50件のなかから受賞者が決定された。受賞した両氏は国内のみならず海外でも高い評価を受けていると聞いており、たいへんすばらしい方に贈呈できることを財団としても誇りに思う。
藤原賞は、国土が狭く資源の乏しいわが国をトップクラスの科学技術国とすることを目的に藤原銀次郎翁によって設立された藤原科学財団が翁の遺志を実現するため行っている公益事業である。財団設立以来60年の長きにわたって毎年顕彰を行い、受賞者数は100名を超える。今なお藤原賞はわが国においてもっとも権威ある科学技術賞として評価されているが、これもひとえに先人の尽力、ご列席の皆様のご理解ご支援の賜である。
量子コンピュータやAIなど科学技術の進歩は世界を大きく変化させる可能性を秘め、一方で地球温暖化など環境問題が深刻さを増している。こうしたなか、人類の幸福に寄与する科学の発展に向け、藤原賞の役割はますます重要になることを確信している。
また当財団にはもう1つの公益事業として、わが国の研究者が主催する国際セミナーを資金的に援助する「藤原セミナー」があり、年2件を支援している。今後とも2つの事業を通じ日本の科学技術の発展に貢献していく所存である」
続いて選考委員長・廣川信隆氏が選考経過を報告、矢嶋理事長から受賞者に賞状および副賞(各1,000万円)の目録が手渡された。さらに磯谷桂介・文部科学省研究振興局長による祝辞の後、受賞した両氏が受賞の喜び、財団をはじめ家族や恩師、同僚や学生への感謝を述べ、「機械が人間に親和的になることで産業や家庭へロボットが入っていく可能性が広がる。例えば、少子高齢化の進行により更なる不足が懸念される労働力についても、われわれの文化のなかでいかにつくり出すか。本技術がそれら解決の第一歩となり世の中に幸福をもたらすことを願っている」(大西氏)、「遺伝子は生物が積極的に老化するプログラムをもっており、それに異常を引き起こす作用を与えれば寿命を伸ばすことができると考えている。また後天的な獲得形質の遺伝は否定されてきたが、最近は一部の獲得形質は遺伝することがわかってきている。すなわち親の寿命が延びると、遺伝子が変化していないのに 子や孫の寿命も延びるといった現象が線虫を用いた実験から見出されており、最終的には人の健康寿命延伸につなげたい」(西田氏)と挨拶し、受賞を励みに更なる研究に邁進することを誓った。
(紙パルプ技術タイムス2019年8月号)