スウェーデン大使館/“森林”をテーマとしたイベントを開催
在日スウェーデン大使館は科学・イノベーション部および商務部と合同で、“森林”をテーマとするイベント「Treasures of the Forest-森のタカラ、未来のチカラ」を3月7〜20日にわたって開催した。
このイベントは両国から森林と密接なつながりをもつ産官学の関係者が一堂に集まって情報交換を行うことにより、協力関係の構築や地域振興に結びつける目的で開催されたもの。会期中は、①木造建築、②バイオエネルギー、③バイオマテリアル、④持続可能な森林、をテーマとしたシンポジウム、オープニングおよびクロージングセミナー、北欧インテリアの展示会などが実施された。
ここでは、セルロースナノファイバーを話題の中心としたバイオマテリアルシンポジウムの概要を紹介する。
冒頭、駐日スウェーデン大使のマグヌス・ローバック氏が参加者への感謝を述べるとともに、スウェーデン農務大臣のスヴェン=エリック・ブクト氏を紹介。これを受けてブクト氏が挨拶に立ち大要次のように述べた。
森は狩猟、レクリエーション、木の実やきのこ採取などさまざまな恵みをもたらし、パルプや紙、森林資源を利用した発明も生み出す。スウェーデン人が森を「緑の金」と呼ぶのも決して言い過ぎではなく、誇るべき資源であり「再生可能な金」なのである。
化石燃料由来のものから、製造エネルギーを必要最小限とした環境影響の少ない新しい材料へ置き換えていくことは、われわれ全員の責任である。持続可能な発展に役立つバイオマテリアルには地域活性化や、林業をベテランから若者まで雇用できる価値の高い産業にする働きもある。
EUでは化石燃料からつくられた製品をバイオベースのそれと置き換える「バイオエコノミー」がよく話題に上る。石油を使ってできることはすべて、木材によっても可能である。スウェーデン政府は未来のバイオエコノミーに大きな期待をかけており、環境に配慮した持続可能な社会への変革と同時に、国内の経済発展につながると考えている。ただし、これらを可能にするためには多様なレベルでの努力を要する。研究開発への注力、また長期的にはコストパフォーマンスを最大にするための政策も必要になろう。2014年に発足した現政権は持続可能な発展を促進するため複数の施策を開始。例えば研究開発委員会を設置し、エコへと転換するための分析グループやスウェーデン初の森林プログラムも策定している。またナノセルロースの研究に多くの大学が取り組み、企業の研究所ではすでに応用研究や製品開発も進められている。
ここで2つの大きな研究について紹介したい。1つは「バイオイノベーション」で、国と60以上の企業・機関が2020年までに最低でも年間1億クローナをかけて協力するプロジェクトである。同プロジェクトは林業を手掛ける企業によって取りまとめられている。もう1つは社会・経済へのバイオマス供給に関する研究協議会であり、2016年から最低1億クローナ/年を投じ取り組まれる予定になっている。これらを含め、毎年政府はバイオエコノミーの発展に向けた数億クローナの投資を行っており、企業からの投資も同様に大きな規模となっている。
さらに政府は2017~20年の間に新しい研究開発プログラムを実施する。これは今年中に国会で審議され、ナノセルロースやその他のバイオベース新素材についての研究をスタートする計画となっている。これらのプロセスは将来的な石油依存からの脱却、持続可能な雇用にも貢献するものである。
森林に関わる研究開発については多くの努力が、とくに企業によってなされているが、クローバルな視点から見ると、われわれだけでできることには限界もあり、海外のパートナーを見つけることは必要不可欠といえよう。スウェーデンと日本はそれぞれ、革新的な開発に向けた努力を深めていくうえで必要なものを多数持ち合わせており、バイオエコノミーという目標を達成するためにも両国の協力は重要と考える。今回のシンポジウムを通じ、新しい視点や協力のアイデアが発見されることを期待する。
なお、本シンポジウムでは次の8講演が行われた。
「日本のナノセルロース発展の鍵はオープンイノベーションにあり」経済産業省・製造産業局紙業服飾品課長/渡邉政嘉氏
「バイオ素材、イノベーションおよびスウェーデンにおける林業振興戦略」スウェーデン産業・技術革新省・シニア・フォレスト・オフィサー/ハンス・ニルサゴード氏
「スウェーデンにおける木材の革新的利用に係る新時代の幕開け」スウェーデン・イノベーション・システム庁・シニア・アドバイザー/レナート・ステンベリィ氏
「ナノセルロース製造の研究最前線」東京大学大学院・農学生命科学研究科生物材料科学専攻・教授/磯貝明氏
「ナノセルロースと他の新素材;その応用可能性」インヴェンシア・ナノセルロース研究開発担当部長/アンナ・ヴィーバリ氏
「木材からの新素材−ナノセルロース、プラスチック、及び養殖魚用の餌(SPプロセッサム/ビョーン・アーリクソン氏
「セルロースナノファイバーの開発」王子ホールディングス・イノベーション推進本部紙パルプ革新センター上級研究員/小林満氏
「日本製紙におけるセルロースナノファイバーの研究開発状況(日本製紙・研究開発本部CNF事業推進室主席技術調査役/金野晴男氏」
このなかで経済産業省の渡邉氏は、多くの新素材のなかでCNFが強みを発揮する大きなポイントは「木からできていること」であり、資源の少ない日本において国内の豊富な森林から環境調和性の高い素材が得られることは圧倒的な優位性であるとし、製紙・化学メーカーが各地で建設を進めているパイロットプラントを紹介。経済産業省をはじめ環境省、農林水産省、文部科学省などが協力し、政府が一丸となって製造コスト低減とこれにともなう市場拡大に向けた政策を進めており、現在kg当たり50~70ドルの製造コストを、2030年には5ドル以下にしたいと述べた。
一方、すでに商品化された、もしくは近く商品化される事例として、CNF表面に抗菌・消臭効果をもつ金属イオンを保有させたシート採用の大人用紙おむつ、セルロースシングルナノファイバーをインキに活用したゲルインクボールペン(伊勢志摩サミットでの配布も決定)、CNFを配合することで音質を向上させたスピーカー振動板を例示。
さらに今後製紙と化学は新しい1つの産業、すなわち高度バイオマス産業に生まれ変わっていくことが予測されるなか、産官学が一体となって設立されたナノセルロースフォーラムについても触れ、こうした場を通じた「オープンイノベーション」こそCNFが早期に社会へ実装される鍵になることを強調。開発面のほか国際標準化など、日本とスウェーデンが協力できる部分は少なくないと結んだ。
また、森林のノーベル賞ともいわれる「マルクス・ヴァレンベリ賞」をアジアで初めて受賞した東京大学・磯貝教授は受賞の喜びや授賞式の印象などをユーモアを交えて披露した後、その研究成果であるTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)について報告した。
これは、TEMPO触媒酸化と呼ばれる化学反応と軽微な機械処理を組み合わせることにより、セルロースをミクロフィブリル化する方技術で、これまで多大なエネルギー消費をともなっていたミクロフィブリル化を低エネルギーで可能としたもの。
本講演ではTEMPO触媒酸化の概要をはじめ、得られたTOCNの機能・特性、TOCNの水分散液とこれを塗膜乾燥させた透明フィルムなどについて解説を行った。
(紙パルプ技術タイムス2016年4月号)