王子HD/木質由来新素材の実用化に向け開発の動きを加速
王子ホールディングス(以下、王子HD)は、木質由来新素材の実用化に向け、大学や異業種企業との共同開発など、用途開発の動きを加速させている。
(1) 北海道大学と共同でライフサイエンス分野の研究部門を開設、木質資源の医薬品への実用化目指す
北海道大学の産業創出部門制度を利用し、4月1日付で北海道大学産学・地域協働推進機構に「木質資源ライフサイエンス活用部門」を開設した。
産業創出部門制度は、「北大と民間など外部の機関が、共通の課題について一定期間継続的な“組織対組織型”共同研究を実施することにより、社会的に高い付加価値をもつ産業を創出し、社会イノベーションを推進すること」を目的としている。王子HDはこの制度を活用し、木質資源から抽出・精製した化合物、およびそれらを化学修飾して得られる半合成化合物の生理機能について解明し、動物薬をはじめとする医薬品などへの実用化を目指す。
〔産業創出部門の概要〕
設置部門名:木質資源ライフサイエンス活用部門
設置場所:北海道大学フード&メディカルイノベーション国際拠点
教 授:奥村正裕(北海道大学獣医学研究院臨床獣医科学分野獣医外科学教室)
設置期間:4月1日~2021年3月31日
(2) 浜理薬品工業と共同で医薬品原薬「PPS」の開発に着手
王子HDと浜理薬品工業は、共同でポリ硫酸ペントサンナトリウム(PPS)の医薬品用原薬(主原料)の実用化に向けて開発を進めることに合意した。
PPSは木質成分の一つであるヘミセルロースを原料とする医薬品の有効成分。人用医薬品としては、1949年に欧州で抗血栓症治療薬として開発され、96年には米国で間質性膀胱炎治療薬として、2017年には欧州で膀胱痛症候群の治療薬として承認・販売されている。さらに動物用医薬品としては、豪州で馬および犬の関節炎治療薬として、国内では犬の骨関節炎症状改善薬として販売されている。両社は今後、人用および動物用の医薬品用原薬の実用化に向けて、共同で開発を進めていく。
なお王子HDは、木材からヘミセルロースを高純度で抽出・精製する独自技術を保有している。
(3) 王子が開発した木質由来新素材がロート製薬の化粧品に採用
王子HDの広葉樹ヘミセルロース抽出物「加水分解キシラン」が、このほどロート製薬の化粧品に採用された。
王子HDが開発した加水分解キシランは、前出のヘミセルロースから作られるオリジナル素材で、同社が世界で初めて量産化に成功した。肌に保湿性を与え、バリア機能を守るなどの機能が評価され、今回の採用につながった。加水分解キシランが配合された保湿化粧品“リスタ”シリーズは、全国のウエルシア薬局で販売中。
(4) 化粧品原料向けCNF“アウロ・ヴィスコCS”を製品化
王子HDと日光ケミカルズはこのほど、化粧品原料向けセルロースナノファイバー(CNF)“アウロ・ヴィスコ CS”を製品化した。
両社は2015年8月から共同研究を進めており、昨年4月にオランダのアムステルダムで開催された世界最大級の化粧品原料展では、“アウロ・ヴィスコ CS”が「Innovation Zone Best Ingredient Awards」の「Functional Ingredients」部門でシルバー賞を受賞、「これまでにない機能をもつ増粘・分散剤」として高い評価を受けた。
“アウロ・ヴィスコ CS”は、同じ天然素材由来の増粘剤であるカルボキシメチルセルロースに比べて100倍以上の高粘度でありながら、大きなチキソ性(力を加えると粘度が下がり、静止すると粘度が上がる性質)を示し、べたつかず瑞々しい感触も合わせもつ。また、粒子分散安定性にも優れるなど、化粧品への幅広い応用が期待できる。
(Future 2019年5月6日号)