藤原科学財団/第57回藤原賞に廣瀬敬氏・藤吉好則氏
藤原科学財団はこのほど、第57回藤原賞受賞者に理学博士・東京工業大学地球生命研究所所長・教授の廣瀬敬氏(地球深部の物質とダイナミクスの解明)、ならびに理学博士・名古屋大学大学院創薬科学研究科・特任教授の藤吉好則氏(膜タンパク質の構造と機能研究)を決定。6月17日、東京都千代田区の学士会館で贈呈式を挙行した。
同財団は、日本の「製紙王」と呼ばれ旧王子製紙の社長も務めた藤原銀次郎翁が私財1億円を投じて設立。銀次郎翁は資源が乏しく、国土の狭い日本が世界トップクラスの科学技術国となることを念願し、財団設立以外にも藤原工業大学(現慶應義塾大学・理工学部)の創設や主要大学への多額の寄附などを行っている。藤原賞はわが国科学技術の発展に大きく貢献した研究者を顕彰し副賞賞金1,000万得を贈呈するもので、これまでに延べ117名が受賞した。
今回の受賞者のうち廣瀬氏は、地球深部の「D”層」の構造や物性・組成を同定し、誕生や歴史を含めた地球の理解に大きく貢献。地球内部は中心からコア、マントル、地殻に分けられ、D”層はマントル最下部のコアとの境界に存在する。これまでその詳細は明らかになっていなかったが、氏は超高圧を発生させるダイヤモンドアンビルセルとレーザー加熱によって地球深部の高圧高温環境を実験室で再現することに成功し、これを進展させることでD”層が「ポストペロフスカイト構造」をとっていることを明らかにした。
一方、藤吉氏は外界との情報や物質交換などにおいて中心的役割を担う膜タンパク質の分子構造を解析するとともに、水を通す水チャネルタンパク質「AQP-1」の原子レベルでの構造解析に成功した。膜タンパク質は細胞膜の脂質2重膜に内在するため、従来の方法ではタンパク質が壊れてしまうなど解析が困難であったが、氏は約?270℃下に置くことで破損せずに観察できることをつきとめ、これを実現する極低温電子顕微鏡も開発。またAQP-1については、1秒間に30億もの水分子を透過しつつ、いかなるイオンもプロトンさえも通さない驚異的な選択的透過を行うことを発見、この成果は共同研究者のノーベル賞受賞につながった。
授賞式では冒頭、同財団理事長の進藤清貴氏(王子ホールディングス代表取締役会長)が挨拶に立ち、受賞者とその家族への敬意と、選考委員をはじめ関係者への感謝の意を表したほか、大要次のように述べた。
「今回は30件の応募があり、数次にわたる選考委員会で慎重に選考を重ね受賞者を決定した。お二人の研究業績は国内だけでなく海外においても高い評価を受けていると聞く。藤原賞はわが国科学技術の発展に卓越した貢献をされた方々に贈呈、昭和35年の第1回以来今年で第57回を迎え、これまでの受賞者は延べ117名に上る。当財団では公益事業として藤原賞贈呈および藤原セミナー開催支援の2つを実施しており、後者についてはわが国の研究者が開催する国際セミナー2件を毎年採用して開催費を助成。来年7月に東京大学の早野龍五教授が物理分野で、また9月には国立がん研究センターの牛島俊和氏が医学分野でそれぞれ藤原セミナーを予定されており、セミナーを通じて国内外の研究者が寝食を共にしながら自由な雰囲気のなかで学問・人間的交流を深めることを願っている。
財団運営は経済情勢同様にきわめて厳しいが、今後とも両事業によって多少なりとも日本の自然科学発展に貢献していきたいと考えている。運営を支えていただいている日本製紙、王子ホールディングス、読売新聞社には引き続きご支援をいただくようお願い申し上げる」
(紙パルプ技術タイムス2016年7月号)